最終退行( 池井戸潤)



最終退行 (小学館文庫)

[感想]

池井戸さんの作品を遡ってきましたが、原点の銀行員のお話で、掛け値なしに面白い。
タイトルの、”最終退行”って、何か仰々しく感じましたが、何のことはない。最後に社内全部の戸締りを確認して、鍵を閉めて帰ることを指すんですね。私も、最後の勤務先で二三度経験しました。処理してもしきれない仕事の山をこなしていくうちに最終になってしまう。そういうことが銀行でもあるということが一つの発見。

主人公の蓮沼は、ただ真面目に与えられた仕事を黙々とこなしてきて20年。それなりに昇進してきたことで自分の不満を抑え込んでいる。いくら頑張っても、家族からも認められなくて…という展開は、典型的なサラリーマンの一員です。
ストーリーは、お定まりの”M資金”がらみで進みますが、そこに銀行会長の裏金が絡み、さらにその関係者の死も絡んできて、ミステリーの様相。
最終盤はトントンとお話が進んでいった感じですが、いつもの安定調和というんでしょうか、ほっとします。悪は滅び善は勝つ。

解説で、松原隆一郎さんが銀行のバブル前後の行動について書かれてます。貸し渋りと貸し剥がしのいきさつ。もっと引用したいところですが、長くなりすぎるので敢えて一部だけ引用します。

これに輪をかけて企業を窮地に陥れたのが、融資継続の拒否すなわち「貸し剥がし」である。マニュアルでは中小企業と大企業にダブルスタンダードを儲けなかったが、日本において数で99%を占める中小企業では、「高い税率を勘案して、利益があっても内部留保せず、社員のボーナスを多くして黒字にしなかった」という経緯がある。そこで、返済しては即時に同額の融資を受ける「ロールオーバー」が慣行化していたのである。この慣行のもとでは、中小企業は将来に備えて内部留保する理由がなく、それゆえ突然の融資打ち切りは生命線を断つことを意味した。

企業の内部留保が高いままだということがちかごろ報道されてますが、こういった過去の痛みが根っこにあるのかな?でも中小企業はそれどころじゃないはず。
大企業はやはり内部留保をどんどんボーナスなどで吐き出して、景気を良くする好循環に貢献すべき! 的外れの感想かもしれませんが、個人的意見です。(2017.02)
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