笑うカイチュウ(藤田紘一郎)

「笑うカイチュウ」サムネイル

サブタイトル:寄生虫博士奮闘記

『感想』

回虫の話なんてもう昔話だろうと読み始めたらとんでもない。ペットブームや自然食ブームで寄生虫が復活したんです。たしかに一時は日本では激減した寄生虫。そのために大学の研究者が減り、医者でも寄生虫を知らない人が多いとか。教えていないんですから当たり前ですね。検便なんてとっくになくなっていたんですね。そういう現状を憂えた寄生虫博士の藤田紘一郎氏の啓蒙書です。
藤田さんの文章は読みやすく、ユーモアもあります。知らず識らずのうちに中に引き込まれてしまいました。
寄生虫は宿主ごとに別種がいます。自分の宿主には特に悪さをするでもなく共生している。それはそうですね。宿主が苦しんだり死んでしまっては寄生虫も生きてはいられませんから。
体内に入り込んだ寄生虫は住心地が良いところを探して体内を動き回る。たどり着いた場所によってはその部分に多大な悪い影響を与えてしまう。そのときの症状がなかなか寄生虫によるものだとは特定できない。それが寄生虫による病の面倒さなんですね。こういうことは初めて知りました。
本書を読んでみると、寄生虫、回虫だけが悪いわけではないことがよくわかってきます。本来は人間とカイチュウは共生できているわけですから。寄生虫が他の宿主に入り込んだり、異常にたくさん取り込まれたりすると具合の悪いことになるわけです。

文庫本では、人間の生活を寄生虫の生態と照らし合わせて、平田オリザ氏によるなかなか興味深い解説がしてあります。末尾の一部を引用させていただきます。

「共生の時代」ということがまことしやかに言われるが、私は現代社会はそんなに甘いものではないと考えている。寄生するべきなので、他者に寄生し、また他者の寄生を許し、そのぶつかり合いの中からしか、新しい時代は生まれてこないだろう。
「誇り高く、ひっそりと」という寄生の論理は、日本と日本人の未来に向けて、一つの指針を示している。

この言葉を読んで、私は今の世相をよく言い当てていると思いました。誇りを持って寄生し合う。それが日本人の自信の復活につながりそうです。
”ひっそりと”という部分が、何でも自由で言いたい放題、やりたい放題という、今のへんてこな資本自由主義の状況を抑制してくれそうです。共生ではなく寄生を「誇り高く、ひっそりと」生きていく。これをよく噛み締めたい。(2021/09/21)

以下は本の表紙の説明文の引用です。

花粉症やアレルギーは寄生虫で防ぐ!?ダイエットにカイチュウがお役立ち?可愛いペットの虫退治など、身近な体験をヒトと寄生虫との共生から易しく解き明かす。善玉カイチュウからグルメが危ない激痛アニサキスまで、隠された体内ドラマを面白おかしく綴った大ベストセラー・医学エッセイ待望の文庫化!?

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