感想
最初に本のタイトルに惹きつけられます。何のことだろう?たしかに暮らしやすさで富山県が話題になったのは記憶にあります。でも何か実感がわきませんでした。それが本書を読めば明らかになります。富山が好きになった著者が富山のいいところも悪いところも、過去から現在、未来にわたって富山への愛を込めて語ります。2日、実質1日で読み切ってしまいました。
文献などや現地の状況もつぶさに調べて紹介してくれます。調べるというよりも触れ合うとか飛び込んでという方が適切かもしれません。よく伝わってきます。学者の書く文章なのでちょっと難しいところもありますが、所々でまとめの文章があって読者の理解を助けてくれようとしているところ、読みやすくしようとしていることがうかがえるのはとても好感が持てます。
いろいろと心に残ったことを忘れないように、章立てを追って列記してみたいと思います。とても力及ばずで書ききれませんが……。
はじめに
”リベラル”とか”保守”という用語がいきなり出てきて、普段あまり政治的なことを考えようとしてこなかった私には、とても取りつきにくい気がして、本を間違って買ったかな?と一瞬思いました。今の政治がうまく機能してないことへの問題提起だったようなことは伝わりました。先に読み進めました。
序章 保守と革新、右と左を超えていくために
この章が本書で私には一番難しかった。右とか左とか私には関係ないと思うようにしてましたし。
第一章 富山の「ゆたかさ」はどこから来るのか
富山の社会的、経済的な特徴と強み、それを支えるポイントについて、いくつかのデータをもとに解き明かしていきます。
三世代同居率と女性の就労率の高さなどが貢献していることが説明されるが、富山固有の特徴だということが改めてわかりました。
第二章 どのように富山県の「ゆたかさ」は形づくられたのか?
この章を読めば、富山がなぜ電力県でアルミ産業が盛んなのか、なぜ富山に北陸電力本社や北陸銀行本店があるのかなど、始めてわかります。一番興味深く読めました。
第三章 家族のように支え合い、地域で学び、生きていく
いまの富山社会で行われている、さまざまな現場の実践、取り組みが紹介されます。
富山型デイサービス、あしたねの森、射水市のふるさと教育など、どれも耳新しく素晴らしいことなんだろうと思います。家族という価値に重きをおくのが富山らしさだということを知りました。
第四章 機器を乗り越えるために「富山らしさ」を考える
富山らしさが変化しつつある事象についても舟橋村と朝日町笹川地区が紹介されます。
舟橋村はこれまでのような福祉や教育などの「サービス・プロバイダー」から、共助、助け合いの「プラットフォーム・ビルダー」へと姿を変えようとしているのではないだろうか。と著者が提起します。”プラットフォーム・ビルダー”、この言葉がこれからの日本の政策の方向を考えるうえで重要なキーワードになる予感が私もしました。
終章 富山から投資する「歴史を動かす地域の力」
富山らしさを全国に展開することの意味のなさ、富山が富山らしさを持続することへの困難さが取り上げられます。家族とかコミュニティーというのはいい面もあれば煩わしい面もあります。たしかに私なんかは煩わしさを感じた方かな?この点について著者はこう指摘します。”社会が危機に直面したとき、人びとは「家族のように」助けあうことを試行するということである”と。今まさに社会が危機に直面している時代なのではないか?私はそう感じます。だから?
保守とリベラルの境などは取り外してプラットフォーム・ビルダーをいかに構築していくかを真剣に議論して構築していかなければならない。そう著者は提案しているように私には受け取れました。
おわりに
富山を愛する著者の井出さんの気持ちがよく伝わってきました。井出さんのファンになったかな。
で井出さんをネットで検索すると、まだ48歳でお若い。なんと今は東京都から神奈川県の小田原市に移住されてしまったんですね。今度は神奈川県を住みやすくするための提案書を書いていただけないでしょうかしらん(2021/01/16)
以下、長くなりますが表紙や帯のキャッチや説明文を引用しておきます。
なぜこんなに住みやすいのか
人口は47都道府県中、37位。しかし…
持ち家率 1位
生活保護被保護率の低さ 1位
女性の正社員比率 1位
勤労者世帯の実収入 4位富山県は県民総生産が全国三一位の小さな自治体だが、一人あたりの所得では六位、勤労者世帯の実収入では四位に浮上する。背景にあるのは、ワークシェアリング的な雇用環境と女性が働きやすい仕組みだ。さらに、公教育への高い信頼、独居老人の少なさなど、まるでリベラルの理想が実現しているかのようだ。
しかし、北陸は個人よりも共同体の秩序を重視する保守的な土地柄とされる。富山も例外ではない。つまり、保守王国の中から「日本的な北欧型社会」に向けた大きなうねりが起きているのだ。
一〇年間にわたって富山でのフィールドワークを続けてきた財政学者が問う、左右の思想を架橋する一冊。リベラルの議論がどうしてもうわすべりな感じがしてしかたがないのは、日本社会の根底にある土台、風土や慣習のようなものと、そのうえに据えられる政策とがうまく噛みあっていないからではないか、ぼくはずっとそう思ってきた。(中略)
保守的な社会の土台を見つめ、その何が機能不全となり、何が生き残っているのかを見きわめる。そしてその土台にしっかりと根を張れるような、まさに地に足の着いた政策をリベラルは考える責任がある。(本文より)