スカラムーシュ・ムーン(海堂尊)


感想

ワクチン戦争が具体的にどういうことを指しているのかを理解することで、この作品の理解が深まる。
厚生労働省がインフルエンザのワクチンを一元管理し政略的に利用されているのを打ち破るために、独自にワクチンの供給源を確保しようとする浪速府の動きと、それを妨げる厚労省との争いが、「ワクチン戦争」と理解してよいと思う。
作品の前半では供給源となる鶏の有精卵を1日に10万個確保するための活動が描かれている。
読者はその話の中で、ワクチンを作る作業の詳細の一部を垣間見ることができる。
中でも、10万個の卵を北陸の石川県から四国の香川県までの500kmをトラックで輸送する難問に取り組む下りは、読んでいてもなかなか興味深く読みすすめられた。
作品の中盤以降は、海堂尊がずっと取り組む医療のテーマについて話が進んでいく。
卵の話はしばらくお預けで、終盤で再び卵関連の話が登場する。その話のなかでトラック運転手の柴田の背景が明らかにされるのが、この作品での一番の作者の仕掛けとなっていると思う。
養鶏場の話から始まってワクチン戦争という壮大な話まで発展させるという展開で、海堂ワールドのひとつが楽しめる。
(2019/12/05)

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