[感想]
この作品を読むまでは須磨久善(すまひさよし)さんの名前は知らなかった。「バチスタ手術」の日本初の施術者であることも。
「チーム・バチスタの栄光」で描かれた、作者海堂尊によるフィクションかとも思っていたくらい。”バチスタ”って、この手術の創始者の名前だったんだ。
- 須磨が天才であることを筆者の海堂は次々と実証していく。その中で私の印象に残るものを挙げていこう。
手術をする際、須磨が最も重視するのはイメージである。ネガティブ・イメージ・トレーニングを行うことで、すべての事象を自分の想定内の世界に封じ込めることができる。すると次第に須磨のイメージは、ポジティヴな方向へ変わっていく。 - 決断する時は他人に相談しないというのも須磨の流儀だ。須磨が他人に相談する時、すでに決断は済んでいる。では何を相談するかというと、他の角度から見て欠陥がないかどうかをチェックしてもらうのだという。自問自答を繰り返し、須磨はここまで登りつめた。
- 須磨が医師を目指した原点は、自分の治療によって患者がよくなり、その喜びを共にしたいと思ったからだった。
- 須磨は問いかける。「困っている人をどれだけ助けられるか、ということが医療の本道です。選ばれた人だけに特殊な治療を施してどれだけ生存曲線を延ばすことができたか、というのも確かに医療ですけど、それは全体から見ればごく一部。ですから移植も大切ですが、移植せず自分の心臓を治していくという道も模索しなくてはならないのです」
- 「クリエイティブ・マインド」これは、須磨が常に自分に言い聞かせてきた言葉だ。
クリエイティブ・マインドがなければ、外科学の進歩はない。全てが自己満足の範囲内で収束してしまうからだ。すると現在助からない患者はいつまでも救われない。従来不可能だった手術ができるようになり、リファインされ新術式が生まれ、ずば抜けた成功を収める。これが、クリエイティブ・マインドの賜物だ。 - 須磨は、様々なことにトライしてきたが、振り返ってみて大失敗はなかったという。失敗したかなと思っても、続けているとその失敗が今の大成功に繋がってしまう。おおきな願いは、ほぼすべて叶っている。その大きな試みには、邪魔する敵役もいれば、絶望的なピンチが立ちはだかったりする。須磨も苦境に陥るが、失敗や裏切られることを繰り返すと、それに慣れてくる。
人間とはそういう生き物なんだ、と割り切って考えている。 - 「人が自分をどう思っているとか、ひそひそ話の中身みたいな小さな問題よりもはるかに、自分が自分の行為をどう思うかの方が大切です。たどりついたゴールが、本当に最初に目指していたゴールかどうか、そうした問いに対する回答がイエスなら、あとは、まあそこそこ、どうでもいいのではないでしょうか」
以上、ざっと上げてみた。
自分の利益でなく、他者の利益を追い求める、それを信念にして、常にそれに立ち帰りながら、人生を進んできた。そういう須磨はすごい。
それを汲み取り文章に著わした海堂も偉い。(2017.09.10)
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