人生教習所(上) (中公文庫) |
人生教習所(下) (中公文庫) |
[感想]
全部読み終わって感じたのが、一風変わった人生啓発本だということ。
個性豊かな登場人物3人の考え方や行動が、小笠原でのセミナー体験を通して変化していく様子を十分に伝えてくれる。
東大生だが引きこもりで、両親に進められて参加してきた頭の良い浅川太郎。元やくざでやくざのような汚れ死後で出ない仕事を捜そうと考える柏木真一。何事にも自分が悪いと考えてしまい、生活できる目途を得たいと考える内気な女性の森川由美。
彼ら落ちこぼれが、セミナーをどう受け止めどう変わっていくかを見ていくだけで、常に読者自身も啓発されて行く仕組みになっていると思う。
上巻では、1次セミナーの話が中心。3つのテーマについてセミナーの講義が進められ、その理解度を確認するための中間試験で参加者がふるい落とされる。
一つ目のテーマは人生と確率について。
成功には絶対の成功はなくて、常に成功の確率と失敗の確率で成り立っている。ただ努力すれば成功できるわけではない。成功の確率を上げられるように努力する者、失敗の要因を一つずつ確実に減らしていける者である。わたしは、こういうとらえ方をすれば、努力の数値化が出来て、割り切った生き方ができそうな気がした。
二つ目のテーマは、人生の経由点と着地点のとらえ方について。
目的を達成するために手段があるが、その手段を実行していくうちにいつの間にか手段が目的になってしまっていないか。
これはわたしにもよくあてはまるテーマで、たとえば健康になるためにウォーキングを始めたのはいいが、いつの間にかたくさん歩くことにだけ努力して、結局足を痛めてしまうとかいうのが自分でも反省すべき点。
もう一人の重要な登場人物である竹崎のレポートでの言葉、”着地点とは、その距離を遠くに置けば人生の目標になり、近くに置けば日々の心もちになる”、この言葉がわたしの印象に残った。
三つ目のテーマは、「認知」。心もちとか自意識とも言い換えている。
自意識というものは、その人の現在置かれた、ないしは育ってきた社会的な立場の中で、言語意識と感情、気質によって育まれていく。
自分が何気なく志向していることや、拘っていることの多くが、実を言うと個人個人の自意識を通してみた世界の産物だということ。逆に言えば、その自意識さえ変われば思考も拘りも、意外にあっさりと覆ってしまうということ。
このテーマは、わたしにとっては、自分がこだわってきたことが、少し視点を変えると意外につまらない自分だけのこだわりだったことに気付かさせられた経験から納得させられるテーマだと思う。
3つのテーマを、著者の垣根は、生きていく上での基礎的な力と考えているようだ。これから私も、時々このテーマを思い出すようにしよう。(2017.09.07)
人生教習所(下)(垣根 涼介)
感想
下巻は二次セミナーのフィールドワークの続き。それから、欧米系島民から戦中・戦後からアメリカ軍駐留時代、そして本土返還後までのいろいろな体験談を聞く内容が続く。
ずっと英語で生活していたのにある日突然日本語に切り替わる。これは、今まで日本語で読み書きや話をしていたのを、突然すべて英語に切り替えるのと同じくらいの辛さがある。それを乗り越えてきた生の体験談。
小笠原には、欧米系島民、旧島民、新島民、臨時島民が入り混じって生活する。観光客や、臨時島民の入れ替わりによって常に新鮮な雰囲気に包まれているし、外からの人間にも寛容さがある。
そういった環境の中で暮らす人々がいかに自分を確立してきたかを考え感じる中で、自分というものがどうだったか?どうしていくかを考えていけるのでセミナー参加者にとって有意義な時間を過ごすことができた。そしてこの作品を読むわたしも疑似体験ができたというわけだ。
なぜ小笠原が物語の舞台に選ばれたか?読み進むうちに小笠原の事情を初めて知り、その理由が理解できた気がする。あまりにも小笠原の人々は歴史に振り回されていたことを知った。そういう事情を読者に知らせたかったことも著者の意図にはあるのではないか?
わざわざ小笠原まで行こうという気にまではなれないが、魅力的な島であることはこの作品を通して十分に伝わってきた。
この作品を読むことで、わたしも「人生再生セミナー 小笠原塾」を疑似体験できたことはとても幸せだと感じる。
ところで、この作品を読んでいる前半に台風15号が長い間小笠原に居座っていた。天気予報でも長い間小笠原の名前が挙がっており、何か不思議な縁を感じる。
作品中では10日間も晴天が続いていた。現実の世界では台風15号の影響はなかっただろうか?特に何も報道されていないので無事を祈りたいし、小笠原の人ひとには、これからもいろいろな困難を乗り越えていってほしいと願うばかりだ。(2017.09.07)
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