月と蟹(道尾秀介)



月と蟹

[感想]

道尾秀介氏の直木賞受賞作ということで手に取りました。
4章まで子どもたちのヤドカリを捕まえての遊びを中心に延々と細かな描写が続きます。
最初は残酷な遊びに眉をひそめましたが、子供の遊びとはそんなものだろうと自分で納得させながら読みすすめます。

読んでてなんかじれったく感じてしまったんです。
主人公の富永慎一は父を病気でなくし、母純江と祖父昭三との三人ぐらし。
慎一は心の中で母を純江と呼び捨てにする。これが最後まで不思議。
昭三が自動車事故で鳴海の母を轢き殺してしまった過去。
それなのに慎一は鳴海と親しくなる。
母の純江は鳴海の父と何故か親しくなって肉体関係を持つようになる。
親友の春也が父親から受ける虐待。
慎一はそういったことに内心のいらだちをだんだん募らせて爆発していってしまう。

道尾氏独特のサスペンス臭というか、だんだんホラー小説ぽくなってきて、これからどんな展開になるんだろうと、怖くなって途中で読むのを何度もやめたくなりました。

でも直木賞だから、我慢して最後まで読み通すぞ。

5章の最後の100頁ぐらいから、だんだん全体がわかってきます。
慎一の心の葛藤、親友の春也の心の葛藤。最後に明かされます。
鳴海の心境も最後の最後に明かされます。

おとなは勝手で弱い生き物、子供はそれに振り回されて苦しんでしまう。

祖父がなくなって、母子は街を離れていく。それがお話しの結末。
なんか救いがありません。
鳴海との別れのシーンと春也の手紙への慎一の感想で少しは救いがあったかな。

月と蟹という題名は最後までよく理解できていません。

カニが内蔵を食い荒らしたり、ヤドカリ(カニではないけど?)で何を表現したかったのかな?

もしかして、こういう事かもしれません。

慎一がヤドカミサマにお願いします。鳴海のお父さんを殺してください。

それが実現することを慎一は知っています。
今か今かと時間の進みの遅さを恨みながらひたすら待ちます。

でもそれがだんだんと耐えきれなくなって走り出します。
ころぼうが擦りむこうが構わず、思い当たるところすべてを回って走り続けます。
そして最後に鳴海の父の乗る車を見つけて……。

このあたりの慎一の心の変化がこの小説の最大の見せ場でしょうね。
子供ながらに一つの殻を破った、大きな心の飛躍だったのでしょうか。

心象風景とかを細かく書いてあることと、著者のサスペンスの味付けが、直木賞受賞の理由なのかなと私は解釈しました。

心象風景などを細かく書いてある作品は私には苦手。いわゆる純文学?はもうずいぶん長い間読んだことがありません。軽いと言われるんでしょうけど、娯楽作品がリフレッシュできて、わたしにはいいです。これが実感。

道尾秀介氏は好きな著者の一人です。この作品は、読むのがしんどかったけど、いろいろと考えさせてはくれました。次は、もっと気楽に読める作品を選びたい(2018.04.20)
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